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「アートで町おこし」に効果はあるか 美術家・白川昌生【コラム】

2018/10/03 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

2003年頃に日本では「創造的都市」という言葉が、全国の行政対象の講演会で流行語のように流れ始めた。英国の都市研究家チャールズ・ランドリーが1995年に出した本で、世界各都市の再生計画の成功例を取り上げたものであった。現在も「創造的都市」という言葉が、地方再生へのキーワードとして必須的に使用されている。
そして、大きな震災を経験した日本では、地方再生は実現されるべき最重要目標として、国、民間をあげて掲げられているのだが、いまだ十分な成果はあがってきていない。

こうした中で、この10年近く全国の市町村で町おこしのアートイベントが、雨後の筍(たけのこ)のように増殖的に発生してきている。2000年に新潟で始まった「越後妻有トリエンナーレ」がその先頭を走っている。アートイベントとして、また町おこしアートとして注目され、かつ大成功をおさめた先例として社会的に認知されることになった一大アートイベントである。
この妻有トリエンナーレの成功をもとに、瀬戸内国際芸術祭も始まり、日本各地でも大小のアートイベントが次々と発生していくのである。アートイベントを巡って回る「観光アート」という言葉も出現してきたし、アートで町おこし、アートを観光にしてお客を集め地域経済の活性化へつなげたいという行政的予想が重なっていったのである。
そこで各地方自治体は積極的に町おこしアートイベントの開催に関わっていくことになる。さらに各地方大学も地域貢献の名目の下で、大学をあげて参加していくことも求められていく。行政、大学、地域住民を巻き込んでいく形で、この種のアートイベントは進められていくのだ。
すでに主要産業が衰退し、過疎化した地方の市町村にとって、手軽に実行できる一種のカンフル剤的なこのアートによる町おこしイベントは、本当に効果があるのだろうか、という疑問を抱いてしまう。しかし、誰もかれもが、この容易に見える手法にすがっているのが現実である。

花見シーズンに福岡城跡(福岡市中央区)で開かれ、草間弥生さんの作品などを市民が鑑賞した福岡城まるごとミュージアム。各地で地域活性化を名目にアートイベントは増え続けている。
(写真と本文は直接関係していません)



この種のアートイベントを実現させるためには、企画段階から展示現場に至るさまざまな場で、多数の人々の働きがなければ実現不可能である。かつてアートNPOについても、これを新しい雇用-起業的な意味で-ととらえて、行政や多くの人々が関係したが、結果はどうであったのか。
現状はボランティアという名のもとに無償の労働奉仕が定着しただけであった。企画に関わり、始めから終わりまで働いたマネジメントあるいはキュレーションの人も安い給料で、長時間労働を強いられただけであった。
また、この町おこしアートイベントは、そうしたスタッフをその市町村で育成し、定住させることを目的としていないため、イベントの後は次のイベントの場所を求めて、これらの専門スタッフは流れ者のように動いていくしかないのが現実である。行政、地域もこうした人たちを使い捨てているだけであり、町おこしアートイベントも単に消費しているだけで、「創造的都市」の中で述べられている考えとは、真逆の方向に進んでいることを誰も気づいていない。


こうしたアートをめぐる現実を踏まえて、労働という実態との関係を各専門の研究者が分析し、書いたのが「芸術と労働」(水声社、白川昌生+杉田敦編、3240円)である。町おこしアートのみならず21世紀の現在における芸術のあり方と、それに関わる社会、経済構造の変化の中での労働という言葉の意味の変化を踏まえ、その両者のつながりを考えてみる必要があると思う。
寄付に対しての非課税など、日本でも免税制度が欧米並みに大きく改革されれば、文化や社会活動に使われる資金が出てくるはずだ。また行政も文化、社会活動を新規事業として支援していく本気の予算を出していくべきなのだ。地域の歴史、自然、環境、人材を新しい資本と見なし、それをいかに起業的な発想で活用し、新しいタイプの産業、雇用、生活価値を生み出せるのかが、厳しく問われてきている。未来へ向かって進むあらゆる地域、地方、都市への大きな課題であるからだ。ここを避けて通ることはできないからであり、将来の生活がここから見えてくるからである。(美術家・白川昌生)=10月1日 西日本新聞朝刊に掲載=

白川昌生   しらかわ・よしお 
1948年、北九州市生まれ。九州産業大を中退後、渡欧。ドイツ国立デュッセルドルフ美術大卒。

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