【コラム】特別展「九州の国宝　きゅーはくのたから」　注目の〝お宝〟＜上＞戦い・交易　細やかに　国宝「蒙古襲来絵詞」　重文「唐船・南蛮船図屏風」　

　５日に九州国立博物館（福岡県太宰府市、九博）で開幕する特別展「九州の国宝 きゅーはくのたから」。九博の開館２０周年を記念し、九州・沖縄ゆかりの国宝６０点以上や重要文化財が一堂に集まる。その中でも注目の“お宝”を２回に分けて紹介する。 （山上武雄）

　鎌倉時代の九州北部にモンゴル帝国（元）が襲来した元寇（げんこう）の様子を伝える巻物「蒙古襲来絵詞」は、肥後（熊本）の御家人竹崎季長（すえなが）が自身の活躍ぶりなどを筆の立つ画師に描かせたものだ。元寇をほぼ同時期に記録した唯一の絵画として「比類ない価値を有する」との評価を受け、２０２１年に国宝に指定された。熊本県天草地方の旧家に伝わり、現在は皇居三の丸尚蔵館（東京）が収蔵する。

　本展では、１２８１年の弘安の役を描いた後巻（縦約４０センチ、横約２０メートル）の中から三つの場面を紹介する（展示は前期）。一つは、生の松原（福岡市西区）を人馬で行軍する季長一行と彼らを防塁の上から見下ろす御家人菊池武房らの一族を描写した場面で、海戦を控えた季長が「今から敵船へ突っ込みます」などと武房に言葉を送っている。７４年の文永の役で戦果を挙げた菊池一族は、色とりどりの大鎧姿の大軍だが、少人数の竹崎勢はかぶともなく簡素な格好をしていて、対照的だ。ほかの二つは海戦に向かう場面で、先発した季長の後を追うように兵船に乗り込む味方や九州の御家人たちの姿が描かれている。

　消失やその後の修復を重ねて今に至る「蒙古襲来絵詞」について、九博の一瀬智主任研究員は「武具や馬具の描写が細やかで評価が高い」と話す。

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　九博が２００５年の開館時から所蔵する「唐船・南蛮船図屏風（びょうぶ）」（縦１５５センチ、横３６１センチ）は、落款はないが、安土桃山時代から江戸時代初期にかけて活躍した狩野孝信の作とみられ、今年、重要文化財の指定を受けた。孝信は「洛中洛外図屏風」などで知られる永徳を父に持つ。

　右隻（前期）は来日した南蛮船と西洋人の一行、左隻（後期）は唐船が入港し、貨物が荷揚げされる中国の港町が描かれている。南蛮船の黒と唐船の白のコンストラストが印象的で、人の往来をはじめ、宣教師や僧侶、役人、商人、遊女なども登場し、港町のにぎわいがうかがえる。

　日本と中国、西洋との関わりを示すこの作品は、海外との文化交流を主要なテーマに掲げる九博の真骨頂を示す展示品といえる。畑靖紀主任研究員は「特に右隻はたばこやきせる、クジャクの羽などの舶来品が詳しく描き込まれている」と精密さにうなる。海外でも評価が高く、米国や台湾、タイの博物館に貸し出された。また、キヤノンがカメラやプリンターの先端技術を駆使して制作した精細な複製品も展示される（後期）。

◆特別展「九州の国宝　きゅーはくのたから」　８月３１日まで、九州国立博物館。西日本新聞社など主催、積水ハウス特別協賛。前期（８月３日まで）と後期（同５日から）で一部展示替えがある。観覧料は一般２千円、高大生千円、中学生以下無料。月曜休館（祝日の場合は開館）。ハローダイヤル＝０５０（５５４２）８６００（午前９時～午後８時）

＝（7月5日付西日本新聞朝刊に掲載）＝

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